乳がんQ&A・院長コラム

乳癌になったらもう子どもは産めないの?の新知見

2010/10/08(金)

2003年のCancerという格の高い学会誌に質の良い論文が載っていましたので、ご紹介いたします(Cancer 2003, 98: 1131−1140)。乳癌の診断・治療の後に出産を経験した45歳未満の女性438例を同定し、次に、乳癌の診断後に出産を経験しなかった45歳未満の女性の中から前述の438例と諸条件が一致する対照群2775例を同定して死亡率を比較検討しています。その結果、乳癌診断後10ヶ月またはそれ以降に出産を経験した女性では、対照群に比較して死亡の危険性が46%も低いことがわかりました。また、乳癌診断時に妊娠中であった女性の死亡の危険性は対照群と同じでした。これらの結果から乳癌診断時や診断後の妊娠は生命予後に影響しないと考えてよいと思います。ただ、死亡率の低下のために乳癌の診断・治療後には妊娠した方が良い!という解釈までには至らないと考えます。


お魚を毎日食べると乳癌になりにくい?

2010/10/08(金)

そうみたいですよ!お魚を毎日食べる女性は週に2回以下の女性と比べて、乳癌の発生が約40%も少なかったと、今年の9月に日本乳癌学会で発表されました。文部科学省の研究班が約2万5000人を対象に平均7年半も追跡しての結果ですから、かなり信頼できる報告です。青魚に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)などの魚介性脂質は種々の効果が報告されていますが、動物実験では乳癌発生抑制効果があることがすでに示唆されており、今回の大規模試験から裏付けられたことになります。ただ、毎日食べることはなかなか容易なことではないし、未知の弊害が隠れているかもしれませんので、お魚を主としながらも極端に偏らないようにすべき、と注意も呼びかけています。牛や豚などの動物性脂肪の摂取量と乳癌発生率は比例することからも、昔ながらの魚を中心とした食生活が大切であることが再認識できますね(お肉屋さん、すいませ−ん!お魚屋さんの回し者ではありませんから…)。


閉経後女性へのホルモン補充療法は有益?有害?

2010/10/08(金)

閉経に伴う女性ホルモン環境の急激かつ顕著な変化は個人差はあるものの様々な体調の変化や疾病を招きます。そこでエストロゲン(E)やプロゲステロン(P)を補うことで諸症状を予防、緩和、改善する目的で行われるのがホルモン補充療法(HRT)です。患者様の中には自覚症状の有意な改善が得られ、喜ばれる方も珍しくありません。ところが2002年にEとPの併用が心血管系疾患、乳癌、脳梗塞の発症率を増加させると報じられ、世界中が騒然となりました。さらにEとPの併用で痴呆発症率が、E単独でも脳梗塞、静脈血栓症、痴呆・認知障害の発症が増加するなどと、HRTの弊害が相次いで発表されました。HRTは有効な治療手段ですが一方では明らかに有害です。医師もどう判断するか、混乱しているのが現況です。今回、最新の発表が注目されていますのでご紹介します(Journal of General Internal Medicine 19: 791‐804, 2004)。この論文では1996〜2003年に発表されたHRTに関わる370件の報告から評価に適切な30件の治験を選択し、約27,000人もの多くの女性を対象として検討されています。総死亡率ではHRT群が未使用群に比べて2%少ないという結果でした。HRT群では心血管系疾患死亡率は10%、がん死亡率は3%、それぞれ増加していました。しかし、その他の死亡率(感染症、腎不全、事故、呼吸不全、肺塞栓、リウマチなど)は33%減少していました。これらの結果からは、ん〜っ?て感じですが、さらにHRTの開始年齢で60歳未満と以上とに分けて解析されています。すると60歳以上からの開始ですと死亡率が悪化していますが、60歳未満での開始では総死亡率32%、がん死亡率31%、その他の死亡率56%も減少していました。今回の報告からは HRTの開始年齢がポイントで、60歳未満での開始によってエストロゲン不足から起こる種々の疾患の予防効果が見込めると考察されています。また、60歳以上の女性にはHRTは禁物!と言って良いと思います。しかし、60歳未満開始は安心して勧められるか否かは、閉経直後の女性を対象とした臨床試験を行って確認する必要性があります。乳癌発症の危険度の高い女性や乳癌術後の患者様には禁忌であることはまちがいありません。


脂肪の摂取量と乳癌は関係あるの?

2010/10/08(金)

すなわち、油っぽいものを好む女性は乳癌になりやすいか?という疑問ですが、この関連については肯定する報告と否定する発表が交錯して来ました。 理論的には、体内の脂肪細胞などで乳癌の原因物質であるエストロゲンが合成されることから肯定的に考えてよいと考えます。事実、最近の文献(Br J Cancer 2003, 89:1672−1685)からも、やはり関連あり!でした。これはメタアナリシスMeta-analysisという統計学的に最も信頼度の高い方法での解析結果ですので真実だと思います。全脂肪摂取、飽和脂肪酸の摂取、肉類の摂取の危険性は全てイエス!と判明。油っぽいものを好む女性の乳癌の発癌危険度は約20%増しとのこと。母親や姉妹に乳癌の方がおられれば要注意とされるのは、遺伝すなわち遺伝子レベルでの発癌よりも食生活の類似性に起因する割合が大きいことが推測されます。親子の嗜好が似ていることは時には罪作りなことになります。心当りがあられる女性は必ず、視触診だけでない検査のある乳癌検診を受けましょうね!


飲酒や喫煙と乳癌発生との関連は?

2010/10/08(金)

ともに関連は黒!です。毎日30g(ほぼ2杯のウイスキーに相当)以上のアルコールを飲用した場合、非飲酒者に比べて乳癌罹患率が89%増悪することが示されました(Cancer Epidemiology,Biomarkers and Prevention 2003;12:1061−1066)。乳癌の中でも近年増加している小葉癌という型の発癌はなんと!330%の増加率でした。
一方、喫煙の関連ですがこれも従来考えられていたより大きいことがわかりました(Journal of National Cancer Institute 2004;96:29-37)。11万6544例の女性を追跡して乳癌リスクを調べた大がかりな報告です。
(1)20歳以前に喫煙を開始(2)初産以前に5年以上の喫煙歴(3)長期喫煙(4)1日20本以上の喫煙、これらのどれかに該当する方で今、現在も喫煙されている方は30%もリスクが高まりますのでご注意を!飲んで、吸っている女性は危機的に要注意ですね!


好発年齢は?

2010/10/08(金)

二つのピークがあります。まず、50歳前後、すなわち閉経直前です。これこそ卵巣から分泌されるエストロゲンによる発癌です。
次が60代です。左右の腎臓の頭側にある副腎からエストロゲンの前駆物質(男性ホルモンの一種)が作られ、全身の脂肪細胞などに存在するアロマターゼという酵素によって、この前駆物質がエストロゲンに変化します。この副腎由来のエストロゲン刺激による発癌が60代に第二のピークを発生させるのです。
ライフスタイルの欧米化はこの二段階のエストロゲン刺激をより高めることになり、閉経後の患者さんを爆発的に増加させることになります。