術前の検査で肺や内臓、骨などに転移はないと診断されてもこれには落とし穴があります。それは1cmにもならないような小さい転移は検査で発見できない点です。もし発見できなかった患者様の場合、手術だけで治療が終わってしまえば、これらの隠れていた転移病巣が徐々に大きくなり、遂には再発というかたちで出現して来ることになります。よって、手術で得られた結果からそれらの小さい転移が潜んでいる危険度を推測し、術後に全身治療であるお薬の投与が必要かどうかを検討することになります。必要であればその必要性と何を、どのように行うのが良いのか、主治医が患者様に詳しく説明し、同意を得て術後補 助療法を開始します。使用するお薬はおおまかに3種のタイプに分けることができます(再発の危険度に応じて、複数用いられることが少なくありせん)。
これはその患者様の乳がんが血液の中を流れている女性ホルモンで成長・増殖する、すなわちホルモン依存性(感受性)乳がんであると判明した場合に適応になります。閉経前であれば大量の女性ホルモンが出て来る卵巣の働きを月一回の皮下注射で止めて閉経後の状態にし、偽物の女性ホルモン様の内服薬(SERM・サームと呼びます)を飲んでいただきます。閉経後の患者様であれば女性ホルモンをほぼゼロにしてしまう内服薬またはSERMを服用していただきます。こうすることで隠れている乳がん細胞はえさがなくなり、死滅し再発して来ないことになります。
これらの治療は副作用も一般的には軽度で、5年から10年と永く行うことが特徴です。お薬代は3割負担で1日あたり70~190円(ジェネリック医薬品はもっと安価ですが)。月一回の皮下注射は約14000円です。
これはその患者様の乳がんが血液の中を流れているある特定の増殖因子で成長・増殖する、いわゆるHER2型と判明した際に適応となります。
このお薬は癌細胞のみを選択的に攻撃しますので、抗がん剤特有の脱毛や吐き気などの副作用がありません。3週毎に1年間投与します。高価であることが問題で、3割負担で一回あたり40000円以上(体重で投与量が変わります)です。
上記の2種のタイプではない方は化学療法しか使えないことになります。一般的には多剤を併用し4~8回、注射で行います(内服のみの適応となることもありますが)。
この治療には長く、多くの実績がありますし、近年では副作用対策(支持療法)が進んで来ましたので、70歳を超える方まで予定通りに完遂することができています。多くの場合、脱毛が起こりますが治療が終われば、また元通りに生え揃います。吐き気も複数のお薬で軽微に抑えることが可能となっています。その必要性を主治医から十分に説明してもらって、安心してお受けください(再発抑制効果は明らかですので)。費用はお薬の組み合わせによってことなりますが、3割負担で一回あたり数万円です。
- 乳がんの患者様の多くは手術だけでは治療が完了しないこと。
- 乳がんの術後の再発予防には内分泌療法があること。
- 全例が抗がん剤治療(化学療法)になるわけではないこと。
- 抗がん剤治療の副作用も今はかなり軽減していること。
- 乳がん再発予防には様々なお薬が使え、その効果が明らかなこと。